「働き盛りの心理学」河合隼雄 新潮文庫版 P19
尊敬する河合隼雄先生の著書からは学ぶことが本当に多い。実際にたくさんの人と接してこられた上,生来のユーモア感覚のせいか,押しつけがましくもならず,「ああ,そんなこともあるかもしれない」と思わせてくれる。
この文章は,どうしても虫の好かない相手である同僚についてあれこれ思いを巡らしていた会社員のAさんが,ある日,その同僚の最も「虫の好かない」態度(上司に対してへつらうような態度)に,自分自身の潜在的な傾向を見て取って思わず笑えてしまった,というくだりを受けたものである。
たしかに,誰か他人の,自分にとって「ひっかかる」部分,というのは決して「自分に全くない部分,正反対の部分」ではない。そういうものはむしろ気がつきもしないしひっかかりもしないのだ。自分のどこかにもある傾向,でもそれを自分の価値観や倫理観では許容できないから「必死で抑えている」のに,目の前の他人があっさりとそういう部分を見せてしまう。それにいらだちを覚えるということはあるだろう。
ここで重要なのは「少し余裕を持った気持ちで見る」ということだろう。いらいらしてしまうのは仕方がない。でもそれが一面は自分の姿である,と思えるほどに余裕が持てれば,たしかに苦笑の一つも出てくるだろう。 時間差をおかないと分からないこと,というのもある。現在の自分のパートナーに対して(ベストパートナーと思っていても),しばしばいらいらすることがある。しかしよくよく思い返してみると,それはどうも,自分自身がそのむかし,当時の夫に対してしていたことと同じだったりする。それに気づくと,その当時の自分の気持ちから,今の相手の気持ちも推し量れるし,なによりも「こりゃバチがあたってるのか」と思うと,ついペロリと舌を出して頭を掻きたくなるような,そんな照れくさい気持ちにもなり,怒りはなんとなく鎮まってしまうのだ。
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